口臭について
においがわかる画期的な測定機器
口臭の正体である揮発性硫化物という成分の量を客観的に測定できる装置に、「ガスクロマトグラフイ」という機器があります。吐い
た息(呼気)を採取し、この測定機器にかけると、息の中の揮発性硫化物の量がわかります。
高価な機器のため、日本国内ではまだ限られた診療機関や研究機関にしか設置されていませんが、この装置を使えば口臭があるか否か、口臭が強いか弱いかがグラフ化された測定値で示されますので、一目瞭然です。
測定を受けるときは、前日からアルコール飲料などの摂取を禁止され、検査当日は、朝起きてから歯を磨いたり、口をゆすいだりし
てはいけませんと指示されます。また、飲食も禁止です。検査が終わるまで空腹をがまんしていただくことになりますが、こうした状
況を設定した上で、口の中にチューブを挿人し、口臭のもととなる成分の数値を測定します。
測定機器の種類によって基準値は多少違いますが、一般に口臭のレベルは次のように、においのガス分子の数値で示されます。
- 2~3ナノグラム……要注意
- 3~5ナノグラム……口臭あり
- 5ナノグラム以上……口臭が強い
1ナノグラムとは、一グラムの10億分の1というごくごく微量な値です。
ガスクロマトグラフイをポータブルにしたものが「ハリメーター」と呼ばれる機器です。少し専門的になりますが、そのしくみを説明しましょう。
口のなかで発生したにおいのガスの分子はセンサーの検知端子にとらえられ、ガス濃度に比例した電流が発生します。この電流が数値としてメーターに表示され、レコーダーに読み込まれ表示されるのです。
ハリメーターは、口臭の原因物質をすばやく正確に測定できる機器として、全国の歯科医院に普及しはじめています。
本来、嗅覚はかなり主観的なもので、同じ人が同じにおいをかいでも、そのときの体調や精神状態によって、受け止め方が異なるこ
とがしばしばあります。しかし、ガスクロマトグラフイやハリメーターの侈拗で、目に見えない口臭の量も数値によって客観的に表す
ことが可能になったわけです。
口臭の原因となる成分は揮発性硫化物
さて、口臭の原因となる成分には、主に次の3つのものがわかっています。
第一にタマネギが腐ったようなにおいの「メチルメルカプタン」、第2に卵が腐ったようなにおいの「硫化水素」、第3にキャベツの腐ったようなにおいの「ジメチルサルファイド」です。
これらのにおいには、いずれも揮発性硫化物である「硫黄」が含まれていますが、これが強いにおいを放つ犯人なのです。
口の中には凹凸のある複雑な形をした歯がある上、血液から分離した白血球や、新陳代謝ではがれ落ちた上皮細胞の残骸、炎症によって破壊された組織などが、いろいろ混在しています。
さらに、毎日、数えきれないほどの食べ物が口のなかを通過し、その一部は食べかすとなってとどまります。また、口の中には常に
何百億という数の細菌が存在していますが、食べかすは細菌の絶好の栄養源となります。体温よりも約一度ほど温度が高い口の中は、細菌にとって住み心地がよく、みるみる繁殖していきます。
このような環境で、細菌はタンパク質や脂肪を分解し、その代謝産物として、先ほど述べた3種類の悪臭の成分が生み出されるので
す。
なぜ自分の口臭は気づきにくいのか
私たちが最も不安になるのは「果たして自分の口臭は強いのかしら?」という点でしょう。
東京医科歯科大学歯学部付属病院予防歯科に口臭治療に訪れた患者さんの内訳をみますと、「自分で口臭に気づいて」受診した人は1.67パーセントなのに対し、「他人から口臭を指摘されて」受診した人は、なんと約5倍の83.3パーセントにのぼりました。他人の意識に比べて、いかに自分のにおいに鈍感か、ということが浮き彫りになりました。
においはやっかいなもので、他人のにおいには敏感でも、自分のにおいとなると意外に鈍感で、無頓着になりがちなのです。
なぜ、自分のにおいには気づきにくいのでしょうか。
朝の通勤時のラッシュアワーで押しあいへしあい状態になっている電車のなかで、ポマードや香水のにおいをまき散らしている人が
います。タバコの煙とにおいがもうもうとしている喫茶店で、平気で談笑している人たち。夜もふけた繁華街で、お酒のにおいをプンプ
ンさせている人……。
「よく自分かくさくないなあ」
発散するにおいに無神経な人たちを見ると、田心わずこう言いたくもなりますね。
ところが、こうしたにおいの元となっている当の本人たちは、いっこうに自分の発散している不快なにおいに気づきません。
これにはわけがあるのです。
その前に、私たちがにおいをどんなしくみで感じるのかについて説明しておきましょう。
においをキャッチするセンサーの役割を果たすのが「鼻の粘膜」です。鼻の粘膜でにおいの分子がキャッチされ、その情報は脳に伝 えられます。また、鼻の粘膜は、口とつながっていて、絶えず口のにおいの刺激を受けています。
ところで、同じにおいを長時間かいでいると、そのにおいに慣れて、やがて感じなくなったということを経験されたことがおありでしょう。
たとえば、買ってきたばかりのパラの花のかぐわしい香り。病院のロビーの消毒薬のにおい。やきとり屋さんの店先から漂う食欲を そそるにおい。
いずれの場合も、においを強く感じるのは、そのにおいに接した直後だけで、同じにおいと接していると、いわゆる「鼻がパカになった」状態に陥ります。初めの頃あんなに感じていたはずのにおいも、やがて感知できなくなってしまうのです。
パラのかぐわしい香りも時間がたつと色あせ(においあせり‥)、病院の消毒臭も診察を受ける頃には気にならなくなります。やきとり
屋で一杯飲んでいるうちに店先で感じたほど、においにそそられなくなります。
嗅覚にはこうした感覚の慣れを生じる性質があるのです。そのため、自分の口臭と長年付き合っていると、なかなか自分では気づきにくくなるというわけです。
口は、においのターミナル
私たちの体が発するにおいのもと、においの出人り口にはいくつかのものがありますが、なかでも口は特別な存在です。
私たちの体は「工場」にたとえられます。口や鼻、皮膚などからさまざまな物質を吸収し、吸収された物質は体内の器官を通して加
工されます。吸収された物質は、体内に入ってきたときとは姿を変えて、複数の出口から再び外へと出ていきます。「工場」への最大の入り口と言えば「口」です。私たちは口から、良いにおいのする食べ物や飲み物を好んで摂取します。
そして、げっぷや嘔吐物、たんなど、体内から排出されるものの一部も口から出ます。口は、「工場」の出口としての役割も担ってい
るのです。
よいにおい、おいしい食べ物。くさい抽出物。さまざまなものが出人りする口は「においの一大ターミナル」です。
そこに口臭が発生するのは、ごく当然のことではないでしょうか。
「呼吸や会話の際、口から出てくる息が他人にとって不愉快に感じられるもの」が口臭の定義ですが、口の中のにおいは、唾液など口のなかに本来備わっているにおいと、食べ物のにおいや肺からあかってくる呼気のにおい、消化管からのにおいなどが混合しているものです。
健康な人にも口臭はあります。「生理的口臭」と呼ばれるもので、それほど気にする必要はありません。人間も動物であり、生きて
いるかぎりは口臭があるのは自然だからです。
問題なのは「病的な口臭」と呼ばれるものです。これは、体になんらかの原因があり、その結果、においが息とともに発生するもの
です。
また、ニンニクやタマネギなど特有のにおい成分を持つ食べ物を食べたあとや、お酒を飲んだあと、タバコなどの嗜好品によっても
口臭は起こります。
口がくさいかなと感じたら、まずは原因を見つけることが肝心です。原因を究明せずに、「口がくさい」と不安にかられているだけでは、症状は改善しません。原因がはっきりすれば、対策は必ず見つかります。
原因究明、適切な処置、そして日頃のケアの3拍子を心がければ、口臭を予防し、きれいな息(フレッシューブレス)を手に入れる
ことは、そんなにむずかしいことではないのです。
「口臭衛生」は公衆衛生の問題
さて、「におい」には「臭い」と「匂い」との2通りの書き方がありますが、不快なにおいの場合には「臭い」が、心地よいにおいには「匂い」という文字が当てられます。「くさい」を漢字で書くと「臭い」ですから、「くさいにおい」は「臭い臭い」となります。文字通り、字面を見ているだけで鼻がむずむずしてきそうです。
ところで、私たちは生きている以上、多かれ少なかれ体からにおいを発しています。
汗や体臭、頭髪のにおい、おならやうんち、おしっこのにおい、生殖器のにおい、私たちは、においの源となる成分を抱えながら生きているのが自然なのです。
不快なにおいを察知すると、多くの人は嫌悪感を抱き、「くさい」と感じます。ところが、こうした感受性は、実は本能的なものではなく、成長する過程で獲得された後天的な感覚だという説もあります。
人間が体臭や糞尿などのにおいを、「悪臭」と位置づけるようになったのは、文明が進んだことによる影響も人きいのです。
その昔、日本でも水洗トイレが普及していない頃は、うんちやおしっこのにおいに関して、もっと寛大だったはずです。空気清浄機や換気扇がない時代には、今以上にさまざまなにおいが室内をめぐっていました。
また、建築素材にサッシが登場する以前は住宅の外からもいろいろなにおいが入り込み、商店街や飲食街には多和多様のにおいが交釧して、においさえも町の一部となって風景にしみ込んでいたものです。
私たちは生活文化の向上とともに、しだいににおいに過敏になり、特に「くさいにおい」に対して用心深く、毛嫌いする方向に進んできていると考えられます。
ところで、野生動物の多くは、自分たちの縄張りのマーキングに尿を使ったり、相手が誰かを判別するために肛門のにおいをかぎあ うといった行動をとります。自分たちの体臭や排泄物のにおいを巧みに利用して、生命の維持に役立てているのですね。
このように動物にとってにおいは、本来、生命活動と直結する重要な役割を果たしていることを考えれば、当然あるはずのにおいまでも毛嫌いすることが、本当に人間らしいことと言えるのか、意見が分かれるところでしょう。
でも、そのにおいがいかに動物らしく、あるいは人間らしい営みによるものであったとしても、社会生活を営んでいる以上、やはり、他人を不愉快にさせるような悪臭を放っているとすれば、改善していく努力をしたいものです。口臭もそのひとつであり、公衆衛生のひとつとして口臭衛生があるといえるでしょう。お互いに不快な思いをしないように努力する、現代人のエチケットの一つにあげられ るのではないでしょうか。
不快のにおいは、口臭と答える人がトップ
また、先に述べた「若い人のにおいと香りに関する意識調査しによりますと、「まわりの人のにおいで不快感を感じた」という人は9
0パーセント近くにのぼりました。
不快なにおいのトップは、男女ともに口臭で、以下、体臭、談の下のにおい、タパコのにおい、フレグランス(芳香化粧品)のにおいが続きました。
生活の中でいちばん身近な関係といえば、夫婦の関係でしょうが、夫婦間の「口臭事情」を調査したデータ(1998年、ライオン。対象は首都圏に住む20~50代の夫婦60組120人)もあります。
それによりますと、「相手の口臭を感じることがある」と答えたのは、妻83パーセント、夫46パーセントでした。結婚生活をされているあなたの場合は、いかがですか。
また、妻や夫に口臭を指摘されたあと、どんな行動をとったかをみますと、妻の場合は「まめに歯磨きをする」(40パーセント)がトップでしたが、夫の場合は「何もしない」 (40パーセント)が最も多く、「ガムを噛む」 (27パーセント)というのがそれに次ぎ、 「まめに歯磨きをする」という人は17パーセントでした。どうやら夫の座に安住しているのかもしれません。
さて、ここまで、口臭に関する調査のポイントとなる部分をご紹介してきましたが、いろいろな調査が行われていること自体、口臭に対する関心の高いことを示していると思います。
この本の中でも、いろいろな調査結果を折に触れ紹介していきたいと思います。
ところで、本論に入る前に、口臭の悩みをかかえている人、口臭の悩みを解決した7人の実体験を紹介することにしましょう。
口臭を指摘してくれた母親に感謝している人、口の中の衛生管理は心のケア、という入、だらしない人間と思われないよう口臭には気
をつけていきたい、という人、口臭はコントロールできるをモットーに、人一倍、口臭予防に気をつかう人など、口臭についての悩みと、その解決に努力する実体験集です。
「自分の口臭が気になる」と答えた人は20%
「あなたって、意地悪ね」「あなた、口がくさいわよ」
この2つのフレーズ。あなたなら、どちらを言われたほうがショックですか。
人格を非難される前者のほうがダメージが大きそうですが、実際にはどうでしょうか。
「口がくさい」と言われたほうが傷つく、という人のほうが多いのではないでしょうか。こんな調査結果も報告されています。
「若い人のにおいと香りに関する意識調査」 1998年7月、クリーンエイジ。対象は首都圏に住む20代のサラリーマン・OL100人)によりますと、「他人に口臭や体臭を指摘されたらショックだ」という人が、男性82パーセント、女性94パーセントにのぼりました。
このように、口臭を指摘されるとショックを受け傷つくことがわかるだけに、たとえ身近な人でも、口臭を指摘することに躊躇してしてしまう、ということになりがちです。
「口臭についての態度、行動に対する調査」 1998年2月、ブリティッシュコロンビア大学・八重垣健臨床教授ほかによる。対象は学生179人)によりますと、現在「口臭がある」ことを指摘された人は6%にすぎません。
また、同調査によれば、口臭を注意できる、と答えた人は53%でしたが、その第一位は母親に対してで、以下、父親、兄弟と続き、身内の限られた範囲の人に対してなら口臭を指摘できるけれど、それ以外の人に対してはしづらい、という結果がでました。
身内以外では、親しい同性の友入、というのが第5位に入りましたが、それでも25パーセント止まりです。ちなみに先生や先輩などに対して指摘できる、という人は一人もいませんでした。
この調査結果は限られた人数で、しかも学生を対象としたものですから、国民すべての傾向を言い表すには無理があるかもしれませ
んが、結果をみて納得できる人も多いのではないでしょうか。
本音を言えば、やっぱり、口臭は指摘しづらいものですよね。まして、職場の同僚や上司、あるいは親戚の人の口臭を指摘できるで
しょうか。
身近な入以外の、社会的な対人関係の中では、口臭を注意することは、どうやらタブーになっているようです。
でも、勇気を出して口臭を指摘してあげることは、その人に対する「本当のやさしさ」ではないかな、と私は考えています。もちろん、時と場所、言い方などに十分な注意を払わなければなりませんけれども。このことについては、あとで述べることにしましょう。
では、口臭を気にしている人は実際にどれくらいいるのでしょうか。
東京都が行った「成人期健康栄養調査、「(自分の)口臭が気になる」と答えた人は20.7%でした。